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遺族年金の「850万円の壁」と共働きの死亡保障

遺された配偶者の年収が850万円以上だと、配偶者には遺族年金の受給権がありません。共働きの高収入世帯で何が出て何が出ないか、子の扱い、2028年4月からの制度改正までを、日本年金機構と厚生労働省の資料で整理しました。

記事番号D-04
公開日2026.10.14
執筆・監修編集部・ヤマト
販売していません
  • 遺族年金を受け取れるのは、亡くなった人に「生計を維持されていた」遺族だけ。その条件の1つが、遺族の年収850万円未満(または所得655.5万円未満)。共働きで配偶者がこの線を超えていると、配偶者には遺族基礎年金も遺族厚生年金も出ない
  • 子の遺族基礎年金は、一緒に暮らす父母がいる間は止まる。子の遺族厚生年金は、厚生労働省の審議会資料に「子に遺族年金が支給され」るとの記述があるが、日本年金機構の一般向け案内には明示がない。当サイトの計算機は数えていない
  • 2028年4月の改正で、子は年収850万円以上の親と暮らしていても遺族基礎年金を受け取れるようになる。配偶者の遺族厚生年金は、子のない60歳未満を原則5年の有期給付にする代わりに、その有期給付では収入要件をなくす

「生計維持」の中身

遺族年金の案内には、必ず「亡くなった方によって生計を維持されていた」という言葉が出てきます。日本年金機構の研修資料(令和8年度)は、これを2つの要件に分けています。

  1. 生計同一要件:同居しているなど、生計を同じくしていること
  2. 収入要件:収入が850万円未満であること。または、所得が655.5万円未満であること

共働きの夫婦なら、1はたいてい満たします。問題は2です。

「収入」は額面の年収、「所得」は給与所得控除などを引いた後の金額で、どちらか一方を満たせば足ります。給与だけの人なら、年収850万円から給与所得控除195万円を引くとちょうど655万円なので、2つの線はほぼ重なります。賞与も年収に入ります。

例外もあります。遺族年金ガイド(令和8年度版)のQ&Aは、死亡当時に年収850万円以上でも、おおむね5年以内に850万円未満になると認められる事由(退職や廃業など)があれば遺族年金を受け取れる、としています。定年が近い人には意味のある規定ですが、30代・40代の会社員が使える場面はあまりありません。

850万円を超えると、何が止まるか

配偶者の分は、基礎も厚生もゼロ

収入要件を満たさない配偶者は、そもそも「遺族」に当たりません。止まるのは次の全部です。

  • 遺族基礎年金:年847,300円+子の加算(1人目・2人目は各243,800円、3人目以降は各81,300円)。2026年度額
  • 遺族厚生年金:亡くなった人の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3
  • 中高齢寡婦加算:夫を亡くした40〜65歳の妻で、18歳年度末までの子がいない期間に年635,500円

支給停止ではなく、受給権が最初から発生しません。後で年収が下がっても、原則として受給権は生まれません。

金額にすると

当サイトの計算機の前提で、共働き・子2人の世帯を置いてみます。夫37歳・年収1,200万円、妻36歳・年収1,000万円、子は2歳と0歳。

夫が亡くなった場合の遺族厚生年金は、22歳から同じ年収で働いてきたとみなす簡易式で年約111万円です。加入25年未満は300月とみなす規定があるので、若くして亡くなっても極端には小さくなりません。

妻の年収が840万円だったら、子が18歳年度末を迎えるまで次の額が毎年出ます。

年額
遺族基礎年金(847,300円+子2人の加算487,600円) 約133万円
遺族厚生年金 約111万円
合計 約244万円

子が独立した後も妻の遺族厚生年金は続き、65歳までは中高齢寡婦加算も付きます。

妻の年収が1,000万円なら、これが全部ゼロです。年収の差は160万円なのに、遺族年金の差は年240万円を超えます。

逆に妻が亡くなった場合も、夫の年収1,200万円は線を超えているので、夫に受給権はありません。

子はどうなるか

子の遺族基礎年金は止まる

子にも遺族基礎年金の受給権はあります。ただ国民年金法第41条第2項は、子に対する遺族基礎年金を「生計を同じくするその子の父若しくは母があるとき」は支給停止すると定めています。遺族年金ガイドも、子に生計を同じくする父または母がいる間は子に遺族基礎年金は支給されない、と書いています。

850万円以上の親と暮らしている子は、この規定で止まります。

子の遺族厚生年金は「出る」と読める資料がある

遺族厚生年金のほうは、条文の書き方が違います。厚生年金保険法第66条第1項は、子に対する遺族厚生年金を「配偶者が遺族厚生年金の受給権を有する期間」停止する、としています。配偶者が850万円以上で受給権を持たないなら、この停止はかからない、という読み方になります。

厚生労働省が2024年12月10日の社会保障審議会年金部会に出した資料(資料3、13ページ)には、現行制度の注記として「妻の収入が850万円以上の場合、妻に遺族年金の受給権は発生せず、子に遺族年金が支給され、18歳到達年度末で終了となる」とあります。

一方、日本年金機構の一般向けの案内(遺族厚生年金のページ、遺族年金ガイド)には、この場合を名指しした説明が見当たりませんでした。書いてあるのは「子のある配偶者が遺族年金を受け取っている間は、子に遺族年金は支給されない」という側だけです。

上の世帯に当てはめると、子に出る遺族厚生年金は年約111万円を子の人数で分ける形になり、下の子が18歳年度末を迎えるまでの累計は約2,000万円です。小さくない額なので、当サイトの計算機は安全側に倒して数えていません。

この額を死亡保障の計算に入れるかどうかは、年金事務所で自分の世帯の条件を伝えて確認してからにしてください。「配偶者の年収が850万円以上の場合、子に遺族厚生年金は支給されるか、いつまで、いくらか」と聞けば足ります。

共働き高収入世帯の死亡保障

計算の出発点が違う

遺族年金が出る世帯は、必要な死亡保障から遺族年金の累計を差し引けます。850万円を超える世帯は、そこがゼロ(子の遺族厚生年金を数えない場合)から始まります。

その代わり、遺される側には自分の収入があります。年収1,000万円の手取りが残るなら、生活費の大半はそこで回る計算になることも多いはずです。必要保障額がいくらになるかは、次の差し引きで決まります。

  • 出ていく:遺族の生活費、住居費、教育費(子が独立するまで)
  • 入ってくる:遺された側の手取り、遺族年金(このケースではゼロ)、すでにある貯蓄

住宅ローンの名義を確かめる

共働き高収入の世帯は、ペアローンで家を買っていることが多い層でもあります。ペアローンの団信で消えるのは、亡くなった本人の持分のローンだけです。遺された側の返済は続き、しかも遺族年金は出ない。この2つが重なると、必要保障額は思ったより大きくなります。団信の扱いはペアローンの団信の記事で整理しています。

「収入が減る」年に注意

育児休業や時短勤務、転職の谷間で、850万円を下回る年があるかもしれません。生計維持の判定は死亡当時の状況で行われるので、同じ夫婦でも、亡くなった時期によって遺族年金が出たり出なかったりします。

保険はこの揺れを前提に、出ないほうで組んでおくのが無理のない考え方です。出る年に当たれば、その分は上乗せになります。

収入保障保険は、子が独立するまで

遺族年金が出ない世帯で死亡保障が要るのは、主に子が独立するまでです。その期間に合わせて保険金が年々減っていく収入保障保険なら、保険料は定期保険より低く抑えられます。子がいない共働きなら、遺された側の収入だけで暮らせることが多く、死亡保障そのものが要らない場合もあります。

具体的な金額は、年収・子の生年・ローンの名義で大きく変わります。自分の数字で試算すると、遺族年金を数えない前提での必要保障額が出ます。

2028年4月からの改正

2025年6月に成立した年金制度改正法(令和7年法律第74号)で、遺族年金が見直されます。厚生労働省の資料では、遺族年金の見直しの施行は2028年(令和10年)4月です。

子の遺族基礎年金の支給停止を見直す

改正法の概要は、子に支給する遺族基礎年金について「遺族基礎年金の受給権を有さない父母と生計を同じくすることによる支給停止に係る規定を見直す」としています。厚生労働省は対象の例として、配偶者が再婚した場合、離婚した元配偶者が子を引き取った場合などと並べて「収入基準(850万円)を超える配偶者が子の生計を維持」する場合を挙げています。

遺族年金ガイド(令和8年度版)も、令和10年4月1日以後は生計を同じくする父または母がいても子は遺族基礎年金を受けられるようになる、と書いています。ただし、令和8年4月1日から令和10年3月31日までに権利が発生した死亡一時金を父または母が受け取った場合は、子の遺族基礎年金は引き続き止まる、と注意書きがあります。

子の加算が上がる

遺族基礎年金の子の加算は、現行の第2子まで234,800円・第3子以降78,300円から、一律281,700円になります(いずれも2024年度価格。2026年度の現行額は上の243,800円・81,300円)。厚生労働省のページは「約23.5万円から28万円」と説明しています。

配偶者の遺族厚生年金は「原則5年」に

18歳年度末までの子がいない60歳未満の配偶者は、男女とも原則5年の有期給付になります。女性は2028年度末時点で40歳未満の人から対象で、年齢は段階的に引き上げられます。男性は60歳未満が新たに支給対象になり、いまの「夫は55歳以上」という条件はなくなります。

有期給付には「有期給付加算」が付き、厚生労働省の説明では現行の遺族厚生年金の約1.3倍になります。5年たった後も、収入が十分でない人などには給付が続きます。中高齢寡婦加算は25年かけて段階的に縮小します。

収入要件については、改正法の概要が配慮措置の1つとして「収入要件の廃止」を挙げています。年金部会の資料では、廃止の対象は「有期給付の遺族厚生年金の受給権者となる」配偶者です。つまり子のない60歳未満の配偶者は、年収850万円以上でも5年間の遺族厚生年金を受け取れるようになります。

子のいる共働き世帯は、何が変わるか

厚生労働省は、20代から50代で18歳未満の子のある人は「現行制度の給付内容を維持」するとしています。年収850万円以上の配偶者が子の独立までの間に受給権を得る、という説明はありません。年金部会の資料では、子が18歳年度末を迎えた後の5年間の有期給付について、配偶者の収入が850万円以上の場合の扱いは「検討中」と書かれていました。成立した法律でどうなったかを、一般向けの資料で確認することはできませんでした。

確実に変わるのは、子の遺族基礎年金です。2028年4月以降、850万円以上の親と暮らす子にも遺族基礎年金が出るなら、子が1人なら年847,300円(2026年度額)を軸にした額が18歳年度末まで入ります。

当サイトの計算機は、現行法(2028年3月までの死亡に適用される規定)で計算し、改正は注記だけにしています。施行が近づいて日本年金機構の案内が改正後の内容に切り替わったら、計算の前提も見直します。

出典

当サイトは保険募集人・金融商品取引業者ではなく、特定の保険商品の募集・勧誘・推奨や投資助言は行いません。遺族年金の受給の可否や金額は、日本年金機構・年金事務所で確認してください。

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年収・子どもの生年月・ローンの名義を入れると、入る保険の種類と月額が出ます。

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